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晋書巻八十九
列伝第五十九
劉敏元
人物簡介

劉敏元(生没年不詳)は字を道光といい、北海郡の人である。若くして勉学に励み、周易や太玄経を好んだ。永嘉の乱に遭い、一緒に逃亡する同県の高齢者とともに盗賊に劫掠され、自分だけが釈放されると、引き返して盗賊たちを大義で説得し、高齢者をも釈放させることに成功した。後に劉曜に仕え、中書侍郎や太尉長史となった。

本文

劉敏元は字を道光といい、北海郡の人である。自分を励まし学問を修め、苦難のために志を変えることがなかった。占星術や暦法や陰陽道を好み、周易や太玄経(1)に専念し、史書を読むことを好まず、嘗て同志の者にこのように言っていた。「読書は義の根本を味わうべきだ。何のために浮薄な言葉ばかりの文章に労力を費やすのか!周易は義の源であり、太玄経は道理への道筋である。これに通じる者なら、私の師匠となりえるのだ。」

永嘉の乱の中、劉敏元は斉の地から西へと逃亡した。同県の管平という人が七十歳余りで、劉敏元に随って西へと向かった。滎陽にたどり着くと、彼らは強盗に劫略された。劉敏元は自分がすでに釈放されていたにもかかわらず、なんと引き返して盗賊に言った。「この方は一人きりで年も取っており、余命がそう長くありません。私は身を以て代わりをつとめたいと思います。皆様が彼を見逃してくださるようお願いいたします。」すると盗賊が聞いた。「この人は君のどのような親戚なのか?」劉敏元は答えた。「同郷人です。貧苦で息子もなく、完全に私に頼って生きています。もし皆様が彼をこき使いたいのなら、彼は年を取っていてお役に立たないし、彼を食べたいのなら、やはり私には及びません。どうか哀れんでいただけませんか。」ある盗賊は目を大きく見開いて怒り、劉敏元を叱りつけた。「たとえ我々がこの人を釈放しなくても、お前を捕まえられない心配があるのか!」すると劉敏元は奮然として剣を手に取って曰く。「私は生きるなんて望んでいるか!お前を殺してから死んでやるぞ。この方は窮苦で年を取っており、天地の神々でさえ哀れんで同情してくださるだろう。私は彼と親戚関係でいえば血族でもなければ、義理でいえば師友関係でもない。ただ彼が私のもとに身を寄せたために、身代わりさせてもらいたいのだ。大丈夫の皆様は慈しみ深く、皆我の願いを聞き入れようとしている神色なのに、どうしてお前だけがずうずうしくもそんなことを言っているのか!」そして劉敏元は顧みて盗賊の頭たちに言った。「仁義はなんと恒久なものでしょう(2)。君子たる者はどうしてそれを失うことができましょうか!上等の功業なら高祖皇帝や光武帝のような偉業を成し遂げるべきだし、下等でも陳勝や項羽のような英雄にならないとならないのではないでしょうか!正当な手段で利益を取得し、経過する所の人々に悉く皆様の威厳と徳行を称賛させるべきなのです。どうしてこの人を収容畜養し、皆様の盛大な美徳を損なうのでしょうか!皆様のためにこの人を誅殺し、皆様の覇業を成功させてあげましょう。」そう言って劉敏元が前に出てその盗賊を斬ろうとするところ、盗賊の頭たちは慌てて彼を止めて、互いに言った。「これは義士なのだ。殺害すると義を背くことになる。」それで、二人はともに釈放された。劉敏元は後に劉曜に仕え、中書侍郎や太尉長史となった。

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