序文

 中国史において六朝時代は政治的にも文化的にも重要な時期です。政治的には漢民族政権が長江以南に追いやられるという中国史上初の状況が発生し、文化的には書の王羲之や詩の陶淵明に代表される六朝文化が繁栄しました。このように六朝時代は中国史上でも注目すべき時期です。その代表的王朝というべき晋は、統一政権としての西晋と地方政権としての東晋という二面を持つきわめて特色のある王朝で、年代的にも全体の40%を占めています。晋に言及しない六朝研究というものは存在しないといっても過言ではないでしょう。このように晋は六朝時代を解明するためには不可欠の要素なのです。
 その晋を研究するための最重要書籍は当然のごとく正史の『晋書』です。確かに『晋書』は300年近く隔たった唐代に編纂され、さらに信憑性の低い逸話なども無批判に採録されているため、史書としての評価は低く、実際に問題も多いです。しかし現在では晋代全域を体系的に扱った唯一の史料であり、晋のみならず後漢末から三国時代、そして六朝時代を研究するにあたって不可欠の資料であることも紛れもない事実です。
 ですが、この『晋書』には現代語の全訳というものが存在しないのです。わずかに著名人物の伝や「天文志」などの部分訳があるに過ぎません。これは非常に残念なことです。この現状に愕然とした私たちは、この現在の状況をどうにかできないものかと思案し、その結果、【解體晉書】というサイトを立ち上げて『晋書』の全訳を目指していくという結論に達しました。私たちの力では『晋書』の全訳には不十分かもしれませんが、誰かが立ち上がらなければ状況は変化しません。少しずつ微力ながらも進んでいけば、いずれ私たちの志に共鳴してくれる賛同者や協力者の力を得て大きな力となり、悲願が達成できると私たちは信じています。
 サイト名【解體晉書】は、何もない状況から弛まざる努力を重ねて西洋医学の翻訳書を作り上げた杉田玄白らの『解体新書』にあやかったものです。私たちは先人には遠く及ばないかもしれませんが、彼らの精神を受け継いで努力していきたいと思います。
 このサイトを立ち上げるにあたり、大東文化大学文学部中国文学科の中林史朗先生より多大なるご教示を賜りました。中林先生はご多忙であるにもかかわらず、私たちの拙い質問に懇切丁寧な御返答を下されました。先生のご厚意に心よりの謝意を捧げたいと思います。
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